新人指導がない分気楽にやれる
と思いきや、新人くんがおそらく大学帰りに彼の
所属するボードゲームサークルの仲間たちを数人
連れてやってきた
僕だったら恥ずかしくて自分のバイト先の本屋で
友達と屯したりはできないなあと思っていたとき
元気そうな大学生の女の子2人組の片方が
「これありますか?」とイナバさんに尋ねてきた
結構可愛い
長澤まさみみたいなオーラがある
その女の子が求めていた本は『コンビニ人間』
へぇ、そんなの読むんだ
読書が好きな女の子にしては結構明るめだな
とかうつつを抜かしている場合じゃない
シワシワのオバサンがananをもってきたので
僕も接客しなくてはならない
接客しているうちに
コンビニ人間は見つかったのだろう
「ありがとうございます!」
と店内に響く元気な声
ナイスぅーイナバさん
僕なら5秒で見つけちゃうけどね、
すると
レジを打っているイナバさんに向かって突然
「あの...変なこと言うんですけど...笑」
ん?なんだなんだ?
近頃アルバイトのマンネリ化を憂う僕、興味津々
この店ちょっと臭い?
いやそうだよな〜
キミは知らないだろうけど
事務所に関してはおじいちゃん家の臭いがするぞ
中年が多すぎるからな
この子が入ってくれたらそれだけで吹き抜けのな
いうちのどんよりした空気が浄化されるだろう
最低賃金だが、融通は効くぜ?
ってそんな訳ねーか、ハハ
ただそんな願望が本当になるのだから面白い
「ここって...バイト募集してたりしますか?」
思わぬ発言に気を取られてしまって
自分の客に対する
「レジ袋はいかがなさいますか?」
が
「レジ袋になりますか?」
になってしまった
ただ、そんな失敗を恥じる間もなく高揚しちゃう
さてはこの子、僕の人生変えに来た??
だってちょうど
あそこでガンプラの雑誌を語ってる少年も含めて
今うちの書店は新人を何人か受け入れている時期
よーし
可愛い子いないからこのバイトもやめちまおうと
考えていたけれどこうなると話が変わってくる
僕の女性に対する厳しい第一印象の審査(内面・外
見)もくぐり抜ける素質のある女の子だぞ?
やって来たかもしれない
ずっと女の子が苦手だったヤムチャに
ブルマという存在がやって来たように
これは巡り合わせなのだ
べつにちょっとの間だけヤムチャさせてくれたら
別にベジータに奪われようが構わない
そうか!
この出会いのために女の子に縁がなかったのか!
全てキッチリこなせる大尊敬先輩のイナバさんも
さすがに急だったので言葉が詰まる数秒間
そして...
「ちょっと前まで募集してたんですけど...今はや
っておりません」
ガビーン!!!(古い)
イナバさん!なにしてんだよ...!
って待て、いやいやそうだった
1週間前に3人目のアラサーくらいのいかにも読
書の好きそうな眼鏡女性が入ったことでもう新人
の枠は埋まってしまったのだ
思わず心の中のザブングル加藤が叫ぶ
人間ってのは不思議で
いくら文学に勤しんで高尚な人間になったつもり
でも
いくら釈迦仏教に影響されてマジで解脱できる寸
前なんじゃね(少なくとも不淫の項目は満たせてい
る)と思っていても
ふつーに、さも、そう思うことが当然のように、
あーあの新人クソメガネチー牛大学生さえ入らな
きゃな、と考えてしまうのだ
長澤まさみチックな女の子がせっかく直接聞いて
くれたのに入れない理由として
チー牛の存在にさすがに腹立ってもいいだろ
とはいえ人生は一方通行
こういう時こそ前を見てがんばるぞ、と思いつつ
その後の作業に全然力が入らなかった