グラディエーターⅡ

f:id:kzombie:20241203143928j:image

マーヴェリックならず。

 

2001年のアカデミー作品賞に輝いた作品であり、僕のオールタイムベストのひとつでもあるリドリー・スコット監督の超大作『グラディエーター』の続編。Oscarを受賞した映画は大抵「そりゃ獲るよな」って思わせてくれる。あれもまさにそうだった。究極のスペクタクルと俳優の神憑りな演技にブチ上がりっぱなし。奴隷に身を落とされたローマ将軍マキシマス(ラッセル・クロウ)が、コロッセオの剣闘士として再び剣を握るその毅然たる精神の生き写しは、それまでリドスコが世に送り出した『ブレードランナー』『エイリアン』同様『グラディエーター』が"映画史の分岐点"であることを物語る。全てにおいて完璧な伝説的作品だった。

 

あれから四半世紀、86歳のジジイになった巨匠リドスコが伝説の続編に挑戦した今作だが、ほんと蛇足だった...。とはいえアクションは至高。冒頭、続編の主人公ハンノ(ポール・メスカル)は海の上にいて、いきなりヌミディア兵vsアカシウス(ペドロ・パスカル)率いるローマ軍の海戦が勃発。元々ローマ生まれのハンノは北アフリカベルベル人の国ヌミディアに亡命して妻と暮らしていたが、その妻と共にローマ軍侵攻を迎え撃たなければならない。しかし...という幕開け。開始早々もうアクションのスケール感がとんでもなくて引き込まれる。無表情で太鼓を鳴らす奴隷たち。弓矢と火球の雨あられ。木っ端微塵。吹っ飛ばされるwarrior共。前作同様、リドスコにしか到達し得ないクオリティのカットの連続にもう心ぴょんぴょんしまくり。0.5~1.5秒でパッパっとカットが切り替わるんだけど、そのひとつひとつのクオリティが圧巻。しかし、このクオリティがストーリーに見事に乗っかってた前作に比べ、今作は映像が先行してて何がしたいのかよく分からない。

 

そう、とにかく今作はストーリーが凡。前作の"全てを失った無敵の人の復讐物語"が単体で面白すぎたので、わざわざ続編にする必要あったのかなあ...。「復讐」ってたった一つの憎悪に対するたった一つの信念の表出だと僕は思ってるんだけど、なんか今作は要素が散漫で全然乗れない。前作の魅力といえば、生きる権利を奪われた奴隷たちが闘技場に放り込まれて、刃物付きの戦車や虎といった迫り来る「死」を前に、即興で隊列を組んで対抗する様相。曲がりなりにも"剣闘士"は生きる権利を奪われた者たちにとっての「生」であり、その刹那の抗いを圧巻のカメラワークと音楽で描かれたらそりゃ興奮する。f:id:kzombie:20241203144209j:imageグラディエーター』の真髄は、殺し合いを「見世物」とする当時の激ヤバ倫理観の疑似体験。ようは僕らは誰に一番感情移入できるかって、主人公でも敵でもなく、殺し合いに狂喜乱舞するコロッセオの観客なんだよね。我々を"反省"させる映像美でOscarを獲ったのが前作。変わって今作はヒヒ、サイ、サメといった多種多様な動物たちが剣闘士に襲いかかったり、サラミスの海戦の再現だー!とかってコロッセオに水を引いて模擬海戦が始まったりエンタメ要素てんこ盛りなんだけど、前作よりも何故か安っぽく見えちゃうし、サラミスの海戦まで行くとやり過ぎで興ざめ。クリーチャーのCGなんとかならんかったのか。一応コロッセオの模擬海戦に関しては史実の可能性あるっぽくて驚きだけど。前作知っちゃうとどうせ主人公死なないだろうなってのもあって、「死」の恐怖が前作より薄れてしまっていた。だからこそ前作におけるジュバ(ジャイモン・フンスー)のようなサブキャラクターで盛り上げたりとか色々試行錯誤できたと思うんだけどな...。

 

そう、なによりキャラクターが残念だった。主人公のハンノにまず魅力がない。前作の観客の「マキシマス!マキシマス!」の興奮に至る這い上がり感がない。そしてその興奮をアシストする悪役も微妙。僕は前作のMVPは憎たらしい皇帝コモドゥスを演じたホアキン・フェニックスだと思ってる。コンプレックスに満ちた性格を発散するように、闘技場の主催者として誰よりも楽しそうにしてる表情がたまんねんだな。この映画の性質上、楽しそうにされると悪役にだって感情移入しちゃう。そういう意味ではコモドゥスは『グラディエーター』の最高の観客であり、それを経て最後には自分がコロッセオの地に立って主人公に挑む驕りも、無常観の権化というか、なんか人間の美しさすら感じてしまう圧倒的な存在だった。僕が映画の悪役を語るときはダース・ベイダーとこのコモドゥスf:id:kzombie:20241203144059j:imagef:id:kzombie:20241203144100j:image

 

それに匹敵する悪役が今作は皆無。カラカラ&ゲタの双子の皇帝もあえて小物感漂わせてるんだろうけど、にしても存在感がない。f:id:kzombie:20241203144111j:image強いて言うならミステリアスな奴隷商マクリヌス(デンゼル・ワシントン)は存在感はあった。ただその存在感って俳優デンゼル・ワシントンの強さであって、キャラクターの魅力ではないな。あまり感情移入できない。f:id:kzombie:20241203144124j:imageそれほど前作のホアキン・フェニックスが悪役として完璧だった。ホアキンって本当に最高だよねって話まですると話が長くなるので割愛。悪役じゃないけどアカシウス(ペドロ・パスカル)は良いね。とても良かった。

 

そして前作の影のMVPはハンス・ジマーの音楽なんだけど、弟子のハリー・グレッグソン・ウィリアムズの音楽が弱い。ハンス・ジマーが恋しすぎた。

 

まあ総じてあらゆる魅力が薄まった一方で唯一残った映像美だけでやりたい放題しちゃった印象。そして主人公ハンノが実は...っていう設定もはっきり言うと「要らない」。前作の完璧なシナリオにおんぶに抱っこって感じで、頭打ち感が否めず。