『こりゃ一体何を見せられているんだ...?w』だけが湧き続けるヘンな映画。一応あらすじでは"サスペンス・スリラー"となってるけれど、なんつーか、サスペンスもスリルも僕は期待していたほど感じませんでしたよ...?だってあの邦画サスペンス・スリラー最高傑作『CURE』の黒沢監督だぜ!?そんな黒沢監督が、菅田将暉・窪田正孝・古川琴音・荒川良々とかいう演技力アベンジャーズを起用して撮るっていうんだぜ!?贅沢な映画だとワクワクしてたらなんか訳の分からんシュールなものを喰らった感じ(笑)
...なのだけれど、正直そのシュールさがツボにはまってからはもう楽しくてしょうがなかった。菅田将暉が演じる主人公は転売屋を生業としている男。冒頭からひたすら転売屋のルーティンを見せ続けられて、『あー、こいつの人生しょーもなw』ってなる。これは持論だけど、主人公がどんな人間であれ、その人の"生活"の描写をじっくり描いてる映画は面白い。菅田将暉の取るに足らないカスの立ち振る舞いが素晴らしくて、別に笑える場面ではない生活の切り取りでなんか笑っちゃう。邦画でハイテンションのろくでなしは山ほど見てきたけどコーエン映画的な落ち着き払ったろくでなしはあまり見られないので良かった。『CURE』で萩原聖人に追い詰められた役所広司のブチギレ(生肉ぶん投げ)なんかもそうだけど、黒沢清の映画は"なんか笑っちゃうシーン"が毎回あって楽しい。
このあたりでもうひょっとしたらな映画かもと思って見てたら、突然頭の弱そうな古川琴音が菅田将暉の家に居て面白い映画確定。帰宅したらなんか居るのに、玄関の靴が視界に入らない枯渇した関係性。大量の段ボール箱に埋め尽くされた家に居候する激ヤバ女。なんか付き合ってるらしいけど全然愛し合う気配がない、一番しょーもないやつ。てかこの映画に出てくる人間全員いい具合にぶっ壊れてる。個人的には窪田正孝が演じる転売屋の先輩が最高だったな。胡散臭い人間を演じられる人はほんと好感持てる。
主人公は荒川良々の町工場を辞めて、飼い慣らしてる女と湖のほとりの家賃7万の屋敷に引っ越す。そこで地元の若者を雇うんだけど、そいつはそいつで素性が掴めなくてなんか面白い。これに関しては黒沢清のキャスティングが良い。奥平大兼という俳優は初見だけど何考えてるのか良く分からない表情がバッチリハマってた。それで言ったら菅田将暉が転売のために屋敷をほったらかしにして東京に戻ったので、広い屋敷に奥平大兼と古川琴音が2人きりになったところで、彼女のわっかりやすい色仕掛けをへし折る場面が良かった。黒沢ナイズされた荒川良々や岡山天音も良かった。終盤になると菅田将暉と関わった顔ぶれが怒涛の如く絡んでガンアクションが始まるのがあまりに虚構すぎてやりたい放題感に失笑してしまった。まあそのくだらなさが肝なんだろうな。節々でわざと緊迫感を出さないようにしてるのがよく分かる。あ、でもたまーに画面外からヌルッと入ってくる恐怖とか黒沢節もしっかり楽しめました。
何より菅田将暉が凄すぎた。ワンハリの円熟ディカプリオに心を動かされたあの日から日本に円熟ディカプリオになれる俳優さんいるかなぁ、なれるとしたらただ一人菅田将暉だなぁと思ってたけど、その展望は正解だったかもしれない。この映画を観れば菅田将暉がディカプリオと同じものを持ってるのが分かる。と思ったら黒沢清監督もインタビュー記事で似たようなことを言っていてちょっと得意気になってしまった(笑)
菅田きゅん♡溺れるナイフ♡の層がポスターに釣られて観たらポカーンってなる映画だと思う。カップルで観る映画でもない。実際僕の座席を蹴りまくる勢いで上映前菅田きゅんを楽しみにしてた後ろのカップルがエンドロール後お通夜だった。もし映画に言葉を失うほど感動してたのだとしたらそれは崇高なカップルだ。これからも前の座席を好きなだけ蹴ればいい。一方で黒沢清ファンのおひとり様は、菅田将暉に邦画の未来を感じつつ、こんなろくでもない邦画(最大級の褒め言葉)が観れた幸せを噛み締めて映画館を去っていくのであった...。『Chime』も観ねば。