酌婦とお客との無理心中という
今の時代だと火曜サスペンス劇場で"ほにゃららホ
ステス殺人事件"くらいになってしまうようなス
トーリーラインを、酌婦が非倫理的な人間である
という他者からの目線と、そして酌婦の内々なる
煩悶の描写によって面白みが圧倒的に増した作品
に仕立てあげているのが流石
お力という看板酌婦とそれに入れ込んで没落して
しまった妻子持ちの源七、通常なら没落してしま
った源七が主人公なのだがこの話は没落"させてし
まった"側のお力が主人公なのが面白い
お力はお力で自身がひとつの家庭をぶち壊さんと
していることを重々承知している
ただそもそも甲斐性のある親の元で育てばそんな
腐った商売をやらずに済んだのにと嘆いている
ほかの酌婦よりもよほど自身の行為が世の批判の
対象を認知して恐れているのが主人公のお力
その内面の捉え方はさすが近代小説だった
お力が看板酌婦である理由として彼女が客に媚び
ずに自分を貫くスタイルだからだというのが冒頭
で書かれているけど、結局上辺だけの自堕落な商
売だから、そのなかで人気になってしまえば浮つ
いた客や愛想のない客しか来ない
そういう商売で人気になってしまえばしまうほど
それだけ虚しさは募る一方である
遊郭で漠然とした不安を抱えながら
生計を立てて生きていく酌婦の世界
それこそがまさに"濁り江"なのだろう