月間エンタメ大賞(2024.4)

1.TVアニメ『宇宙よりも遠い場所

ー淀んだ水が溜まっている。 それが一気に流れて行くのが好きだった。 決壊し解放され走り出す。淀みの中で蓄えた力が爆発して、全てが動き出す...!ー

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新年度の忙しさでなかなか鑑賞体験ができない。できたとしてもなんか集中できない。そんななかでの今月ベストは人生二度目の"よりもい"に尽きる。ロッキーばりのto be,or not to beに何度心踊らされた事だろう。コロナ禍で青春の形もガラッと変わってしまった。今の時代はつまらないなんて言いたくないけど、あの頃の少女達はたしかに青空を背負っていた。平成少女の眼差しは宇宙より遠くに向けられていた。

 

2.漫画『君と宇宙を歩くために』

ーいったいどのくらいの人が「点だと思っていたものが点ではなかった」と気が付けるでしょうー

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『夜明けのすべて』に社会的弱者の描き方の正解を見た。この漫画もまた、具体的な固有名詞を避けつつもその症状を"ありのまま"描くことで僕たちに星の見方教えてくれる。そして実際に苦しんでいる人たちを照らしてくれる。そんな作品で溢れる世の中になったらいいなと思うけれど、実際そうじゃない。だからこそこの漫画には価値がある。遠く見える金星は、僕らには点のようだけど、実際は地球と同じ球体なんだ。

 

3.映画『真昼の決闘』

ー逃げましょう。英雄になる必要は無いのよ。ー

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20歳になって初めて観た『七人の侍』は仲間を集ってとある山村を悪党から守る話だったけれどこの映画はまさにその対極。とある街に4人の悪党がやって来る。流石に分が悪いから住民の加勢を請う街唯一の保安官ウィル。しかし住民たちはみんな責任逃れ。最終的に一人で戦うことに。この辺の陰惨さのリアリティがこの映画の醍醐味。もはや私は一体なんのために戦っているのか。かったるそうなゲイリー・クーパー

 

 

4.映画『マンハッタン』

ー"N.Y."は彼の永遠の都だったー

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映画にハマってからウディ・アレンには何故か食指が動かなかったけど、やっとこさ観ることにしたこの映画にぐいぐい引き込まれてしまった。ウディの映画にはろくでもない大人しか出てこない。みんな平気で嘘をつき、その結果しっぺ返しで痛い思いをする。このままではまずい、と心機一転するが、結局変われない。そういう人間たちが背負うマンハッタンはなんともいえない魅力に溢れている。

 

5.『四月歌舞伎 夜の部』

ーおいカカァ、片棒担げェ。ー

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初歌舞伎。会場の独特な空気に緊張していたが、今まで想像の範疇にとどまっていた"ケレン味"とやらを全身で浴びたからなのか、なんだか体が熱くなって力がみなぎってきた。それもそのはず、今回の出演者は2人合わせて150歳を超える人間国宝コンビ・にざたま(片岡仁左衛門坂東玉三郎)だった。歌舞伎特有のゆるりとした台詞回しと、それでいて決めるところはカッキリ決める高揚。歌舞伎っていいね。

 

6.ドラマ『虎に翼』第1週

ー頭のいい女が確実に幸せになるためには、頭の悪い女のふりをするしかないの。ーf:id:kzombie:20240430135813j:image

新しい朝ドラのヒロインは伊藤沙莉。ついに来たか、の印象。しかも何が嬉しいってヒロインが僕と同じ大学に通っているということ。キャストの演技がいい。米津玄師の主題歌もいい。内容はというとまさにフェミニスト歓喜...なのは間違いないけれど正直石田ゆり子母が娘の気持ちを重々分かっていて、それでも娘のように立ち向かうことではなく、諦めることを選択した一人の人間だった、という設定は面白かった。

 

7.映画『異人たち』

ーファミリーセットを。ー

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今月最後に鑑賞した映画。山田太一原作ということでなんとなく人間の描き方が日本っぽくて、正直うわあ...となるシーンもあったけどそれ含めて映画体験として二重丸だった。このダイナーでファミリーセットを頼む場面がショットとか境遇に煽られて胸がキューってなったね。まだ未開拓のLGBTQ映画のひとつの良回答だったかな。主演のアンドリュー・スコットだったかな、の演技も素晴らしかった。

 

8.映画『パスト・ライブスー再会ー』

ー24年前に12歳の私は、あなたのもとに置いてきたの。ー

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自転車を買った日に、その勢いでイクスピアリまで飛ばしてレイトショーで観たので付加価値がついた。この映画は多分レイトショーで観るくらいが最高なんだろう。ソウルの街並みが美しく、甘美でしっとりさせられる映画だった。一方、初恋を数十年こじらせた男女の口から語られる"イニョン=輪廻観"はどこかまだるっこしい、というか、ああ女性映画だなと思った。女側が未練タラ男に感化される展開は好かん。

 

9.漫画『ヒストリエ』2巻

ー 一生の間に読めるのは書物全体の中の、ほんの一部なのかもしれない...ー

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実は勇敢な主人公の正体が野蛮卑劣な戦闘民族スキタイの血族だった...ということが判明するまでの素晴らしい演出の数々に震えた。某三国志漫画と違って淡々とした運びだから、一見突き放してるように見えて実は相当人間愛に溢れた漫画だと思う。奴隷に堕ちて、はじめて本を読む。その文字が主人公の目にどう映ったかはこのコマを読めばわかる。僕は限られた人生であと何冊本を読めるだろう。そんな気持ちでページをめくる。

 

10.TVアニメ『夜のクラゲは泳げない』1話

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今月は感動が少なかった訳だが、このオリジナルアニメの1話は凄く良かった。"よりもい"を令和版にブラッシュアップしたような少女群像劇。やっぱり主人公の性格がフワフワしていて、尚且つ夜に生きている。令和のJKの特性を捉えたタイトルが秀逸。そして推しの子でお馴染み動画工房の作画力が凄まじい。内容はまだ1話なのでまだこれからだけど、監督のコンテ力に感動してしまった。楽しみなアニメーション。