ガーシュウィンの音楽、ニューヨークを舞台に展
開される情けない大人達のどうしようもない物語
『マンハッタン』は"こうはなりたくない"大人が
たくさん出てきて、都会でロマンチックに恋しよ
うとして、結局上手くいかず、自分を見つめる暇
もなくまた恋に駆られていく物語
同時進行で『宇宙よりも遠い場所』という希望に
満ち溢れた青春アニメを見ているのもあって
僕は最初あまりにも登場人物がみんな情けないも
んだからこの映画を好きになれないつもりでいた
んだけど、終わってみれば凄くいい映画だなあと
エンドロールまで余韻に浸ることが出来た
のだめカンタービレの影響でずっと昔から頭に
こびりついているRhapsody in Blueとシニカルな
ナレーションを添えてニューヨークの大都会が映
し出される冒頭シーンはとても心地いい
主人公のTVライターアイザック(ウディ・アレン)が前妻のジル(メリル・ストリープ)に結婚生活の暴露本を出版され、それを友人達に読まれるという恥ずかしい思いをする場面
シーン1
「もう駄目だ 何から何まで友達に知れ渡る」
読み嘲りながら画面外に消えていく友人達。
アイザックはとぼとぼ歩いていく。
「"彼は突如 ユダヤ的 進歩主義 男性優位主義 人間不信の発作に襲われた"」
「"人生の不満を訴えるのみ 芸術のための犠牲も避けた"」
「"死の恐怖を悲劇的に語るが すべて自己陶酔にすぎない"」
シーン2
「絞め殺したい」
「すべて事実よ」
「まるで僕はオズワルドだ」
ここのカット割りと台詞いいなぁ〜
F先生のマンガのこういうのに近いものを感じる
知人の大学教授エール(マイケル・マーフィー)が編集者メリー(ダイアン・キートン)と別れた。17歳のトレーシー(マリエル・ヘミングウェイ)といい加減別れなきゃいけないと思っていたため、メリーと付き合うことにしたアイザック。トレーシーは43歳のアイザックに裏切られて「私を愛していないの?」と泣いてしまう。
それに対するアイザックの情けない返事!
少なくともアイザックは43にもなって未成年に手
を出してる訳だから最低な野郎なのだ
ロマンチックなシーンがあってもそこでこれは虚
飾だなって嗅覚をもっとかないとならない
しかしエールはまたメリーに会いたいと電話をかけてきた。実はメリーもエールを忘れられず...。アイザックがメリーを問い詰める場面。
浮気をしたやつは奥に置いて浮気をされたやつは
手前右側でカメラを背負う感じなのがやっぱり一
番分かりやすく浮気の情けなさが伝わる。
アイザックが大学に侵入し、講義中のエールを隣の空き教室に呼び出して問い詰める場面。
エ「僕が先だ!」
ア「僕が先?子供のセリフだ」
ア「いつからだましてた」
エ「聖人じゃない」
ア「だが自分に甘すぎる!」
エ「完全無欠では息が詰まる」
ア「先でどう言われる いずれこうだぞ💀」
ア「要は誠実さだ 教室に吊るされてもいい 僕は惜しまれて死ぬ人間になりたい」
ここの人体模型の骸骨を背負った言い合いが
とにかく滑稽で良い
メリーとアイザックのマンハッタン夜景デートの
シーンが美しく、そこが素敵だという人もいるん
だけど、僕はクズ同士のロマンチックなんて素敵
だとは思えないから、そのあたりで訝しく見てた
んだけど、そういうロマンチックがこのシーンの
フリだったと分かって安心して笑えた
周囲の人間に振り回されて疲れたアイザックはソファに寝っ転がってテープレコーダーに"生きがい"を語る。
グルーチョ・マルクス、ウィリー・メイズ、ジュピターの第二楽章、ルイ・アームストロング「ポテトヘッド・ブルース」、スウェーデン映画「感情教育」...
本当に彼の生きがいなのかそれとも適当に喋って
いるのかよく分からない
マーロン・ブランド、フランク・シナトラ、セザンヌの絵画「林檎とナシ」中華料理店のカニ料理...
トレイシーの顔
ただ、最後のこれは唯一本当っぽい
一人嘘をつかずに向き合ってくれた17歳の少女を
思い出して、彼はソファから起き上がる
アイザックが大切なことを思い出して道路を走る
シーン、ガーシュウィンの音楽が良い
ただもう思い出したときは遅くてもうトレイシーはアイザックが別れの口実に薦めたロンドンの演劇学校に向かう直前だった。
僕(アイザック、べつに告白してもいいから、頼むから誠実に今までの行為を詫びて、未成年から手を引いてくれ...!)
ア「演劇学校に行かないでくれ」
......は???
クズが主人公の映画にふさわしい幕切れ
クズがクズなせいで辟易して、まわりのクズと縁
切って、本当に大切なものに気づいてやり直すの
かと思いきや結局クズのまま終わる
そこに謎のカタルシスがある
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