麦秋

脚本スクールの課題で"魅力的な叔母さん"を描か

なければならないという難しいお題が出されてし

まったので、これはもう僕の引き出しにないので

ひたすら日本の過去作から真似ようということに

した

これをきっかけに今まで手をつけていなかった小

津安二郎の『麦秋』という映画を観てみることに

七人の侍で好きになった宮口精二さんも端役で出

演しており、僕自身も小津安二郎を知らずして脚

本など書けぬという後ろめたさがあったのでグッ

ドチョイスだと思った

まず真っ先に目につく小津安二郎の特徴はやっぱ

り日本家屋を存分に活かしている点

ゼミの先生とか映画の書籍で散々聞いてきた小津

のローアングルの意味がようやくわかったし、僕

自身ファスビンダーの第三世代なんかでこのショ

ットに随分感銘を受けていた訳だからその本元を

吟味できて楽しかった

いわゆる縦のアングル

日本家屋の独特な間取りの奥行き感にひじょーに

浸ることが出来る

今じゃ珍しく数世代が住んでいる家庭の、婚期の

さしせまった女性の結婚話とそれに対する周りの

家族の感情を捉えたお話

核家族化が進んでしまってまず話し合うきっかけ

もあまりない現代、それにマッチングアプリだ婚

活サイトだなんていって非常に打算的に縁が結ば

れる時代である

たしかに無鉄砲に結婚をするのはよくないと思う

けど、ある程度の思い切りと冒険があってこそ人

間の営みだと僕は思っている

結局この『麦秋』において、主人公・紀子の結婚

が曲がりなりにも数世代で住む家族を解散させて

しまうんだけど、それをメロドラマとして描く訳

でもなくて、あくまでそういうのは"摂理"なのだ

と捉える小津の感覚には共鳴できた

そういう突き放した視点でファミリードラマを描

くからこそ最終盤で娘を嫁にやって自分たちも大

和に隠居した初老夫婦が越した家を取り囲む麦秋

に叙情性を感じる

そして面白いと思ったのは

数回家族でテーブルを囲んだ食事のシーンがある

んだけど、そのご飯が一度もアップにならないの

に異様に美味しそうに感じる

これは小津ならではじゃないかな

それまで都会的で洗練されている小津の映画って

いうのはどこか食指の動かないものだったし、現

にこうやって観てみるとやはり苦手な部分はある

だけど日本人を感覚的に描いた黒澤や市川とはま

た違ったタッチがあって、どこか日本の日常をス

ナップしたかのような魅力が感じられる