風になれない子供

最近は大した学びの得られない岩井俊二の映画を

スマホをいじりながら見ていたり、脚本の勉強の

ために別ベクトルの集中をしていたりで、

映画に集中できていないということもあったので

久方ぶりにシネマカリテ新宿へ

あ、ただ『打ち上げ花火、下から見るか?横から

見るか?』はとても面白かった

僕はただ単に失礼なやつってだけで

岩井俊二のアンチではないと立場だけは明らかに

しておこう

 

今回は『コット、はじまりの夏』

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アイルランドで制作され、今年のアカデミー国際

長編映画賞にもノミネートされた有力な作品

そもそもアイルランドという国は文学が非常に栄

えてて、サミュエル・ベケットやW.B.イェイツの

ような劇作家や、オスカー・ワイルドのような詩

人の生まれた素晴らしい郷である

文化も日本との共通点が非常に多い

昨年宮崎駿という面白いお爺さんに自然の大切さ

をこっぴどく教育されてしまった二十歳の僕は

アイルランドの自然と我が国の自然とが

どうシンクロしているのか

どう異なるのかを肉眼で確かめてみたくて

あのケルトの大地に

足を踏み入れたいと日頃から思っている訳だが

意外にもアイルランド産の映画は見たことがない

のでこれを機に観に行ってみることにした

 

9歳の少女コットは、冷めきった家庭に生まれ、

親から十分な愛を与えられず育ってきた。その為

彼女は感情を表に出すのが難しかったり、嫌なこ

とがあると逃げ出すくせがあったりして、なかな

か子供らしい愛嬌を感じることの出来ない女の子

として学校にも馴染めずにいた。そんな夏休み、

家庭環境が悪い中で両親が4人目(たしか)の子供

を身ごもり、コットは親戚夫婦に預けられる。

不器用な夫ショーンと優しい妻アイリンは、9歳

の少女に必要なものが備わっていないコットを労

りながら、毎日大切に受け止めた。アイリンはコ

ットの髪の毛を梳いたり、ジャガイモの皮を剥く

練習をさせた。ショーンは運営する農場にコット

を連れていき、汗をかく大切さや、自分の足で走

ることの素晴らしさを教えた。そんな素敵な夫婦

には、実は悲しい過去があった。夫婦がコットに

与えた部屋や、着せてあげた服には、かつて2人

がなによりも大切にしていた存在の名残があるこ

とを、幼きコットは知らないのである...。

 

最近脚本を学び始めたから起承転結でストーリー

を纏めることを意識しており、あらすじを書くの

が上手になったのではないだろうか

アイルランドにもネグレクトは存在するだろうし

ちゃんと映画自体が社会問題への提言の形を成し

ているという部分にまず好感がもてるけど

なによりも

コットの疾走、そして周りを取り囲む自然だ

これは本当に見事だった

ストーリーの重心が割と現実的だったので、別に

不思議な出会いをするわけでも無ければ、その子

の人生を向こう側から救いに来てくれるような出

来事はほとんどなにも起こらない

だけど親との"距離"に対する不安は『となりのト

トロ』同様9歳の少女にも芽生えているわけで、

それを傍観しなきゃいけないという点において

とても辛い映画ではあるんだけど

ショーンとアイリン夫妻はコットがいつか自分の

足で漕いでいけるように補助輪をつけてあげる

その甲斐があって

あの爽やかで、健やかな疾走があった

そこに僕はドキュメンタリーの妙を感じたのだが

実際に監督のコルム・バレードはドキュメンタリ

ーを畑としており、今回が長編映画デビューとの

こと

"映画の魔法は何も起こらないんだけど、たしかに

あの女の子は幸せになろうとしている"

これが今回の映画で僕が美しいと思ったポイント

である

そしてコットはこの夏休みの間に

「人の生と人の死」を体験することになる

そこでどう感じたかは無口な主人公の少女からは

語られないけれど、自然に囲まれた夏休みを過ご

した彼女の姿がなんとなく訴えているような気が

した

僕はこう受け取った

今の時代は"親ガチャ"だとか"トー横キッズ"とか

子どもの境遇に対する残酷なフレーズが飛び交っ

ているけれど、すべて"親の在り方次第"って一言

で片付いちゃうと思う

文学的エッセンスをミリも感じない岩井俊二とい

映画作家が、かわりに"画で表現した"荒廃した

日本・イェンタウンのおかげで僕は気づいた

経済的な貧富の差は間違いなくあるし

親の学力や経済力が子どもの育ち方に少なからず

影響を与えるのも認めたくは無いが認めざるを得

ない事実だと思う

その上で僕は親も子も

"心さえ"貧しくなきゃなんとかなるんじゃないか

と思う

こんなに自然が美しい日本という国に生まれた時

点で、もうすでに裕福な部分があるじゃないか

この国の子どもは、感性豊かに育つ特権を持って

いると思うのだ

親が非常に貧乏でも

あまり社会的地位が高いとは言えない職に就いて

いたとしても

心の豊かさを子どもに教えてあげるくらいことな

ら誰だってできるのではないだろうか

東京の人の多さや他者への配慮の薄さを目の当た

りにする度に「こんなところで本当に人が育つの

か」と驚き呆れることがある

あの空気に薄められた排気ガスの充満した甲州

道の歩道をたくさんのママチャリが有り得ないス

ピードで通過していく

子どもを将来自立させるために育てるのはもちろ

ん大事だが

それ以上に大事な部分を忘れちゃいけないと思う

躍起になってはいけない

子どもの心にいつか花を咲かせてあげられるよう

に、苗を与えてあげるべきなのだと思う

子どもって本当に大人の何倍もエネルギーをもっ

ているから、そのエネルギーを全力で開放できる

時間をたくさん与えてあげるべきだと思う

これからどんどん大人が窮屈になっていくとして

も子どもには森を吹き抜ける風のような推進力を

もっていてほしいものだ