ーすこし・ふしぎー
今月は忙しくてあまり鑑賞体験ができなかったけど、僕の3月の驚きや感動はこのたった一日にすべて凝縮されているような気がする。幼い頃からずっと行ってみたかった藤子・F・不二雄ミュージアム。二十歳になってしまったけど、あの頃からへっぽこな僕を夕ご飯を待つ金曜の夜に、雨の日の休日に出迎えてくれたた"すこし・ふしぎ"な世界を楽しむことが一種の時間遡行なのかもしれないなあとしみじみ思う。
2.第2回配信者ハイパーゲーム大会
ーゲームって"ねもうす"ー
映画もテレビもどこか微妙な今の時代で感動できるものが見つけられなくなって嫌になっちゃうことがある。正直ゲームの世界に情熱なんてないという認識もあった。でも、本気で歓喜したり涙したり、国籍も陰陽も十人十色な配信者のキャラクターが一丸となって素晴らしいエンタメを作り出す姿に感動。それを統括しているのは加藤純一という一人のおっさん。でも、令和を背負う最強のエンターテイナーだと思う。
3.漫画『シャミー1000』
ー狂ったのじゃないわ
これが......愛のしるしなんだわ......ー
今ではすっかりサブカル領域で市民権を得た"ケモナー"。あらゆる分野の始祖である手塚治虫はその原点で美しい愛を描いていた。彼の世界では、悪が排斥される訳でもなく、善が報われるという訳でもない。ただ、善に生きた者は、漫画の神様に愛されるのか、みんな"死"を恐れることなくこの世を去っていく。その表情と台詞の美しさ。そもそも手塚治虫は"漫画で人間を感動させること"の原点じゃねえか。
4.映画『CURE』
ー...あんたはだれだ?ー
今月出会った素晴らしい映画。いつの間にか人間愛に満ちた映画しか評価出来なくなってしまった僕でも、ここまでストーリーが完璧なら問答無用で感動できる。とにかく、この映画の恐怖はとても上品だなあと思う。ふだん眠らせている五感にすーっと侵食されて、日常にありふれている感覚が途端に怖くなる。この没入感と恐怖は『羊たちの沈黙』ぶり。まさに"こういうのでいいんだよ"。黒沢清恐るべし。
5.漫画『ようこそFACTへ』2巻
ー君は負けたんだ。社会にも。DSにも。その女子にも。ー
あの"ヤバい人"はなにかの敗者なのかもしれない。はたまた、敗北に対する勝者なのかもしれない。この漫画で躍動するのは青春真っ只中の高校生でも、ロボットの操縦士でもなく、陰謀論者。ただ、僕も痛いほど知ってる"悔しさ"や"苦しさ"の末、新たな陰謀論者が誕生する瞬間の高揚感が凄まじい。漫画ってある種のコミュニケーションだと思う。動物とも宇宙人とも交われるのなら、もちろん陰謀論者だって同じはず。
6.漫画『のび太の恐竜』
ー夕焼けがきれいだね。ー
ミュージアムの感動をそのままに僕はこれを読んだ。小さい頃から慣れ親しんだ漫画。大長編ドラえもんは毎回尋常じゃない読後感に浸れる。ただ、今回の読後感の正体は壮大な物語の感動よりも"出会いの尊さ"かもしれない。真面目に読むと、これは超日常の中で、日常にありふれた出会いにフォーカスした物語だと分かる。長い時間旅行の末、いつものように友達と「さようなら」と言って別れる。その夕焼けが美しい。
7.映画『魔女の宅急便』
ー落ち込むこともあるけれど、私、この街が好きです。ー
今月のジブリは金曜ロードショーにて。一人の魔女の成長譚を、空想に頼りすぎないで、しっかり現実の中で描いている素晴らしい作品。都会の街並みや車の流れ。人の感じ。その解像度の高さに驚かされる。一度魔法が使えなくなって、再び魔法を使えるようになる瞬間、キキはもう一人前の魔女。"落ち込むこと"を受容してそれでも前を向くことこそ本当の成長なんだってこの映画が教えてくれる。
8.映画『ワイルドバンチ』
ーLet's go. Why not.ー
"行くぞ・もちろんだ"の会話ひとつでどこまでも僕をぶち上がらせてくれるのだろう。アメリカン・ニューシネマのエネルギーは恐ろしい。サム・ペキンパーのこの映画以降、西部劇は下火になっていくのだが、まさしく西部劇を"ぶち壊す"ような雰囲気がある。ただ、それは崩壊ではない。一種の破壊芸術。それを象徴するのはデス・バレエと称され今もシネフィルに愛されて続けるラストの銃撃戦。
9.漫画『火の鳥 ヤマト編』
ーお若いの、人間はな、死なないことがしあわせではないぞ。生きているあいだに...自分の生きがいを見つけることが大事なんじゃー
火の鳥黎明編・宇宙編の感動から数ヶ月経ってようやく読むことが出来た。なんとここに来てあれほど望んでも望んでも手に入らなかった火の鳥の血が手に入る展開にビックリ。ただ、だからこそこの物語の結末はあまりにも悲劇的。そこに人間という生き物の強さを感じることができる。たった一つのできそこないの古墳からここまでストーリーが飛躍する手塚治虫ワールド。来月はどんな世界が待っているのだろう。
10.映画『麦秋』
ーよく見とけよ、東京もなかなか良いぞ。ー
小津安二郎初め。前々から小津映画では日本家屋の美しさを堪能出来る事は知ってたけど、その美しさは廊下を歩き、部屋で佇む人間の生活模様を割愛せずに大切に描いているからこそだろうなと確信。ただの白米なのになんでこんなに美味しそうなのだろう。野性的な"人間の開放"の黒澤に比べて都会的で落ち着いた気配のある小津は苦手だったけど、食わず嫌いにもほどがあった。日本映画のもうひとつの礎。