2023-12-04

考古学は最も浪漫のある学問である。

ツタンカーメンと奇跡的な出会いを果たしたハワ

ード・カーターや、映画史に遺る主人公インディ

アナジョーンズも考古学に命を捧げた1人。

彼らは地上の安らかな日常に飽き飽きして、真実

の歴史が眠っている地下の世界へ潜っていった。

考古学の虜になっている者は誰もが血が浪漫の赤

に染まってしまっている最高なバカヤロウだ。

とすると、現実に勝利した考古学者がどこで生ま

れ、どういう生涯を送り、どのように息を引き取

ったかを知ることもまた浪漫なんじゃないか。

ファンタジーを真実にした男、シュリーマンの伝

記はまさに浪漫の溢れるものだった。

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彼はドイツの農村に生まれて、すぐに母親が亡く

なって、説教師の父親の手ひとつで育てられた。

父親はポンペイヘルクラネウムのことを熱くシ

ュリーマンに語ったりする正真正銘のシュリーマ

ンの父親だったが、伴侶を失ったという理由から

酒に溺れ、やがて子供に暴力をふるうようになっ

てしまう。そんなある日、父親とは別の酔っ払い

の粉屋のおじさんがホメロスの詩を100行ほど朗

読してくれて、それがシュリーマンの古代への情

熱の出発点だった。他の生徒に笑われながらシュ

リーマンは空想の世界に酔っていった。

このように、シュリーマンの伝記には社会的に身

分の高い人間があまり出てこない。

出てくるのは浪漫を握りしめたろくでもない大人

たちと、彼が幼い頃に恋焦がれ、いつか一緒にあ

の古城の謎を解き明かして、一緒にトロイアに行

こうと誓ったミュンナという村娘だけ。

ミュンナだけは変人シュリーマンの情熱的な語り

を受け入れて、いつも笑顔でいてくれた。

シュリーマンの凄いところは、身分を自覚してい

たのか一旦商人として成功して経済的に裕福にな

ってから考古学者としてから幼い頃から巻をくべ

つづけた情熱の世界へ飛び込んで行った点だ。

やがて遅咲きの考古学者になる商館の書記は、賃

金のほとんどを言語習得のために費やし、夏はサ

ウナのように暑く、冬はシベリアのように寒いお

んぼろ屋敷で18カ国もの言語を覚えて、やがてミ

ュンナは別の男と結婚してしまうものの、何十年

もかけてトロイアの情熱に遜色ない知識を手に入

れた。

シュリーマンは別にトロイアのことに限らず浪漫

的に生きていたので彼の空想が現実になるように

常に行動していた。

彼がトロイアの夢を叶えるには、ミュンナに変わ

る彼自身の夢を後押ししてくれて黒髪が美しい女

性(でギリシャ人でまだ若くて結構博学)の存在が

必要条件だったそうな。

23区内で風呂トイレ別で1Kで2階以上で家賃6万

以下の物件を探すのとどっちが大変か。

旧友の司祭ヴィンポスは、シュリーマンにペテル

ブルクでギリシャ語を教えた人で、彼が紹介した

ソフィアという16歳の生娘こそ、まさにシュリー

マンの情熱が実を結ぶ瞬間の伴侶として、ヘレネ

の王冠をシュリーマンが被せる人物としてふさわ

しい女性だった。

かつてはトロイアの遺跡は、『イリアス』に登場

する温度の違う"ふたつの美しい泉"がそこにある

ということでブルナルバシにあるとされていた。

だけどシュリーマンは、そのふたつの泉の温度は

2,3度しか変わらないし、『トロイア』の文章に

準拠すればあるのはヒッサリクだと。

後にブルナルバシには泉が2つどころか34もあっ

て、しかも温度も一定の華氏62度だと判明。

シュリーマンはヒッサリクを掘る。

彼の浪漫がトロイアの遺跡はより深いところにあ

るとシュリーマンを突っ走らせてしまった結果、

本来トロイアがあったはずのもっと浅い場所をシ

ュリーマンは破壊してしまった。

ただそんなことはどうでもよくて、彼はたしかに

金色に輝く財宝の数々を発見した。

その狂った情熱こそがシュリーマンの特徴であ

り、のちにミュケナイにて、アガメムノンのマス

クを発掘し、彼が伝説の人物として世界史の教科

書に載ることになるあの日に繋がっていく。

実はそれすらも科学の発展によって信ぴょう性が

薄いことが明らかになるんだけど、なにはともあ

れこの事実を灰にしてしまうほど激った情熱と、

その浪漫には僕も学ぶところがある。

彼が掘り残したもうひとつの遺跡・クレタには、

浪漫の虜となったシュリーマンが見たらゾッとす

るような真実が眠っていた。

クレタの方の主人公、シュリーマンと違って元々

裕福なところから始まるエヴァンズの近視故に考

古学者として成功した話も面白い。

このように考古学者は浪漫を追う者故に浪漫溢れ

る生き様を遺してくれている。