2023-12-02

休日なので神保町へ。

ただぼんやりと眺めているだけでも良いけど、テ

ーマを持って古本屋を覗くともっと楽しい。

"手塚治虫"というテーマで夢野書店やら澤口書店

やらをふらついていると、『アドルフに告ぐ』が

1000円で売っていたので購入してしまった。

ハードカバーのB5サイズが4冊なのでとにかく重

たい。ドリンク無料券を貰ったので2階の古本街

を見下ろせる窓の前の静かな座席でココアを飲ん

でちょっと一息。

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明治大学マンガ図書館に行き、

火の鳥 黎明編』『火の鳥 未来編』を読む。

本当に、あっという間の3時間だった。

日本の夜明けから地球最後の日までの壮大な物語

とその帰結。

手塚治虫が描く"生きること"と"死ぬこと"。

そこに欲望が絡んだ上での人間の愚かさと美しさ

が、かつてのマンガでは描写されていたのだとい

う感動。

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現代では科学的に説明可能な太陽が欠ける現象を

日の神の怒りだと勘違いして混乱する愚かさ。天

高く昇っている日のもとで生きて、心を動かし

て、死んでいく。それこそがこの国が"日本"とし

て紡いでいく長い物語の始まりであり、まさしく

日本人の永遠のテーマであることを自覚させるそ

の美しさ!

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そしてやがて何千年と経ち、理性の先のコンピュ

ータに支配された人間が人間としてのアイデンテ

ィティを失って自ら地球の生命の火を絶やしてし

まう愚かさ。そこに美しさはある?

もちろんある。

その繰り返しが生命の営みであり、たとえ滅んで

もはるか遠くに生命が生まれ、また同じことの繰

り返し。その永遠の繋がりの断面図に僕らはしっ

かりと存在するのだという哲学的なテーマは美し

さという一言で片付けるには勿体ないほどだ。

読み終わったあと思わず立ちくらみが起こって、

自分が今いる場所が火の鳥と出会う前に僕がいた

現実かどうかを把握するまでに結構時間がかかっ

た。東京ヴェルディの16年振りのJ1昇格のニュー

スをスマホで見てようやく現実に戻ってきた。

久遠とか悠久とかそんな超越的な出会いをたった

2冊の本で経験してしまった。

ある程度まで感性を磨ききった人間としてこの本

と出会えたことは奇跡なのかもしれない。

その後も余韻というかそんな言葉で表せないよう

な読後感でいつもとは違う感覚に支配されたまま

全然知らない道を歩いて導かれた先は水道橋。

東京ドームでは三代目 J Soul Brothersがライブを

やっていて、何千もの歓声や音楽の反響を包み込

むドームの傍を通って駅に歩く。

現実が非現実のようで、非現実が現実の真っ芯を

捉えているような、不思議な日だった。