休日なので神保町へ。
ただぼんやりと眺めているだけでも良いけど、テ
ーマを持って古本屋を覗くともっと楽しい。
"手塚治虫"というテーマで夢野書店やら澤口書店
やらをふらついていると、『アドルフに告ぐ』が
1000円で売っていたので購入してしまった。
ハードカバーのB5サイズが4冊なのでとにかく重
たい。ドリンク無料券を貰ったので2階の古本街
を見下ろせる窓の前の静かな座席でココアを飲ん
でちょっと一息。
明治大学マンガ図書館に行き、
本当に、あっという間の3時間だった。
日本の夜明けから地球最後の日までの壮大な物語
とその帰結。
手塚治虫が描く"生きること"と"死ぬこと"。
そこに欲望が絡んだ上での人間の愚かさと美しさ
が、かつてのマンガでは描写されていたのだとい
う感動。
現代では科学的に説明可能な太陽が欠ける現象を
日の神の怒りだと勘違いして混乱する愚かさ。天
高く昇っている日のもとで生きて、心を動かし
て、死んでいく。それこそがこの国が"日本"とし
て紡いでいく長い物語の始まりであり、まさしく
日本人の永遠のテーマであることを自覚させるそ
の美しさ!
そしてやがて何千年と経ち、理性の先のコンピュ
ータに支配された人間が人間としてのアイデンテ
ィティを失って自ら地球の生命の火を絶やしてし
まう愚かさ。そこに美しさはある?
もちろんある。
その繰り返しが生命の営みであり、たとえ滅んで
もはるか遠くに生命が生まれ、また同じことの繰
り返し。その永遠の繋がりの断面図に僕らはしっ
かりと存在するのだという哲学的なテーマは美し
さという一言で片付けるには勿体ないほどだ。
読み終わったあと思わず立ちくらみが起こって、
自分が今いる場所が火の鳥と出会う前に僕がいた
現実かどうかを把握するまでに結構時間がかかっ
た。東京ヴェルディの16年振りのJ1昇格のニュー
スをスマホで見てようやく現実に戻ってきた。
久遠とか悠久とかそんな超越的な出会いをたった
2冊の本で経験してしまった。
ある程度まで感性を磨ききった人間としてこの本
と出会えたことは奇跡なのかもしれない。
その後も余韻というかそんな言葉で表せないよう
な読後感でいつもとは違う感覚に支配されたまま
全然知らない道を歩いて導かれた先は水道橋。
東京ドームでは三代目 J Soul Brothersがライブを
やっていて、何千もの歓声や音楽の反響を包み込
むドームの傍を通って駅に歩く。
現実が非現実のようで、非現実が現実の真っ芯を
捉えているような、不思議な日だった。