2023-12-14

サッカーの授業。

チーム替えを経て最初のリーグ戦。

僕が仲良くしてもらってた同じ文学部の2人とも

離れてしまいぼっち状態。

大体この授業にいるのはサッカーをガチガチでや

ってた東京・神奈川・千葉・埼玉の高校出身の学

生がほとんどであり、自分は圧倒的に場違いだと

いうことを、文学部という唯一の共通の仲間、唯

一のよすがを失ってようやく思った。

そもそも文学部の2人は都内の高校の同級生だ

し、結局引け目はあった訳だが...。

粛々と端っこの方でボールを蹴ろう...と思って、

自分のストライカー気質を極力抑えて、

日頃の活動で膨らみに膨らんだ自我を殺して参加

した。

だけど、新しいチームで二人僕の名前を覚えてく

れた子がいた。

一人はジャンくん。

スポーツ留学生なのかな、大学生特有のギラつき

を感じないすごく温厚な見た目で、そのかわり胸

板が尋常じゃないほど分厚い。

僕が6年やって全然たどり着かなかった領域のサ

ッカーを知っている人だ。

いつも最終ラインから理不尽なほど正確な精度の

ロングボールをくれるし、最強の味方。

自分がチームの中心人物になることを自覚して、

みんなの名前を覚えようとがんばってくれてて、

チーム練習で全然彼の高精度パスに足が届かない

足でまといの僕の名前すら覚えてくれた。

もう一人はダイヤくん。

The・シティボーイって感じの身なり。

唯一前回も同じチームだった人だ。

この子のファーストインプレッションは微妙で、

どいつもこいつも陰で馬鹿にする有吉的な奴。

短パンにサッカーソックスで来る子に対して、

「あいつのソックスの丈イキってね?w」とか、

僕含めてたった3人の文学部のタカくんというバ

ルセロナのユニフォームを着ていてめっちゃ上手

い子に対して「バルサいる、あいつだけガチだw」

とかちょっとでも浮いた部分があると本人のいな

いところで言っちゃう。

他人のことが気になっちゃってしょうがない人。

僕も陰でなにか言われてそうでちょっと嫌だし、

まだお互い馴れないデリケートな時点で他人を蔑

ろにして自分を守る卑怯な奴だなという第一印象

だった。

だけど、それが"鼻につく"というよりかは、"弱

さ"かなと思ってしまえるほど、どこかぎこちな

さを漂わせる部分がある。

大抵のやつはその弱さを自分本位なやり方で器用

に隠すから鼻につく。

だけど彼は、サッカーがめちゃめちゃ上手いの

に、何故かイケイケじゃない。

上手いやつはそのままの勢いでサッカーしてない

ときもブイブイ言わせて、全体の中心のポジショ

ンに立ってしまうイメージがある。

全国の野球部のテンションがまさにそれ。

あいつらから野球を奪ったらただの陰キャだと思

う。言ってること勢い任せで面白くないし。

ダイヤくんは、いつもフォワードの位置にいて、

ガツガツプレーには関与しない、一見やる気がな

いと思われてもおかしくない僕の"やる気"の部分

を見抜いているのか、それともただ純粋に本気で

やるサッカーが楽しいのか、いつも前線からの守

備を、僕の名前を呼びながら指示してくれる。

他の子は誰も僕の名前を覚えてないのに。

結構前から、彼は口ぶりに反して悪い奴じゃない

なと思っていた。チームに溶け込む努力をやらな

いくせにフォワードという比較的楽だけど目立て

る立ち位置にずっといる僕に対しても、他の子達

と同じように接してくれる。なんなら客観的にど

こか浮いていて喋りづらそうにしてる僕を気にか

けてくれているとすら、思う。

今回同じ文学部のバルセロナが対戦相手にいた。

15分ハーフの前後半制は運動不足にはきつい。

ただ、手を抜くと、もう一度サッカーをする理由

が無くなっちゃうと思うから、僕は全力。

ジャンくんの理不尽弾丸ミドルで、

うちのチームが幸先よく先制できたんだけど、

すぐにバルセロナにチンチンにやられて2失点。

低い位置から一人でドリブル突破してゴールしち

ゃうくらいイケイケの彼は、たしかに文学部らし

い見た目と裏腹に、どこか文学部っぽくない感覚

を持っているような気がする。

というか、ああ、本当にサッカーが好きなんだな

って感じ。笑

ちなみにもう1人の文学部の子は彼が連れてきた

サッカー未経験者の同級生。

全然サッカーやった事ないのに誰よりもがむしゃ

らに走ってて凄い胆力だと思う。

地方にはいないし、信長の家臣にいそう。笑

そして後半、さっきの短パンソックスがGKにな

ったと思いきや、GKの位置からドリブルして、

ボールを運んでシュートするくらいイケイケにな

りはじめて、あの短パンソックス、たしかにダイ

ヤくんの言っていた通りイキリだな、と思ってし

まった。(笑)

ダイヤくんは多分イキってる奴が苦手なだけなの

かもしれないと、なんとなく思った。

むこうが遊び始めて、負けの雰囲気が漂う中、

フィジカルとテクニックがしっかりしているむこ

うのDFにジャンくんのロングボールは尽く跳ね返

されて、得意の裏抜けを狙ってもむこうのカバー

リング が上手くて結局鎮圧されてしまう。

もう今日はギブ、と思ったんだけど、

そもそもがとる必要の無い単位なのに、

周りとの関係値も一切ないのに、

そしてそれを補うサッカーの技術がないのに、

ただサッカーがやりたくて授業に毎回出席してい

る僕自身と、そんな僕の存在を理解してくれてい

る人達のために活躍してみたくて、久々にゲボの

味がするくらい全力で走った。

走りながらも、頭をフル回転させる。

ここ数年はサッカーを見てばっかりいたから、

この緊張感とワクワクはすっかり忘れていた。

僕がゴールを決めるとすれば、相手DFが一歩出な

いといけないマイナス気味のクロスしかない。

安易にクロスすると奪われて悪目立ちするという

ことで、大体やらないでキープしてコーナーを狙

いに行く人が多い中、今回の味方の右サイドは結

構クロスをしてくれる珍しいタイプだ。

そっちの方が僕にとっては"サッカー"って感じが

するから好きだ。そんな彼を信じてみる。

残り3分。

味方のカウンターで僕のところに来たボールを、

相手をなんとか背負ってダイヤくんにパス。

ダイヤくんすかさず右サイドに展開。

チャンス、と思った。

あえて早めに前方へ走って、相手のDFラインを下

げさせて、もう一度動き直す。

名前の分からない右サイドの子が相手を振り切っ

て、クロスを入れる。

マイナス気味。ドンピシャだ。

僕はゴールに対して横を向き、ボールを受ける

姿勢をとって足が届くギリギリで足を伸ばして、

なんとか自分のものにした。

右足で右側にトラップして、逆方向のゴール左隅

を狙って蹴る。

数年間眠っていたあの高揚感が目覚める。

決まった瞬間、さっきまでうだうだ考えていた自

我の抑制なんてもうアホらしくなって、

ひたすら喜んだ。

後ろを振り返るとダイヤくんが僕の名前を呼んで

走ってきて、左足の靴紐が緩かったから、僕は靴

が脱げてコケた。ダイヤくんと名前の分からない

右サイドと3人で抱き合って喜んだ。

後ろの方からジャンくんもハイタッチしにきた。

「カズキ、よくやったぞ!」なんて家族以外に

久々に言われた気がする。

もうずっと独りで目に見えないデカいものと抗い

続けていたので、東京の地で、優しさとか温かさ

とかを超えた価値のあるものを中学以来久々に誰

かと分かち合えたことがなにより嬉しかった。

だからといって別に彼らともっと距離を縮めよう

とは思わない。この距離を埋めようとする時の感

情には、ゴールを決めた瞬間の感情のなかにある

ものが入ってない気がするから。

あくまで彼らは彼らと近い場所にいる人達と仲良

くすべきだと思うし、そこに僕はいないと思う。

ただ、今日の経験は絶対に忘れない。