ビクトル・エリセ

TOHOシネマズシャンテにて

瞳をとじて』を鑑賞

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スペインの映像詩人ビクトル・エリセの31年ぶり

の新作であり、彼が生涯に遺した長編映画は今回

のを含めてわずか4本しかないということなので

全国のシネフィルはその希少性にワクワクしなが

ら今回の作品を待ち望んでいたのだろう

僕は一昨年の夏に細田守の『時をかける少女』に

ハマった時期があって、その頃細田守の映画の原

点を探っていた

たしか青山学院大学のオシャレで大きい本屋を訪

れたときだったか、その時初めて細田守のインタ

ビュー記事でビクトル・エリセという名前を知っ

たような気がする

あの頃はまだ映画を手探りで見ており、幅を利か

せていいろんな作品を鑑賞していたのだけれど、

その中でもエリセの『ミツバチのささやき』には

本当にビビッドな感覚を植え付けられた

アナという少女を捉えた画がとにかく美しいけれ

ど、公開された1973年当時はスペインはフランコ

独裁体制の最中で、とにかくその抑圧の気配をど

ことなく感じさせる虚無感があった

その灰色の世界を無垢な少女がまとった黄色のオ

ーラが塗り替えていくような感覚があった

なんといってもエリセの"まなざし"の描写

映画という表現にどこまでも奥行きを感じさせる

ようなとんでもないクローズアップが画面全体を

支配する

それが僕のエリセの映画で掴んだ感覚だった

 

そこから2年経って僕は84歳のエリセの新作を観

るということなのだが、当然劇場で31年ぶりに

観る人もいるというのが凄いよなあ

 

かつて映画監督だったが今では小さな海岸の村に

住んでいるミゲルという男が、そのとき失踪した

一人の俳優の影を追っていくにつれて、忘れかけ

ていた記憶や止まっていた誰かとの関係に再び触

れることになっていく映画だった

映画的サプライズが何も起こらない最初の2時間

が過ぎ、奇跡をすっかり諦めたあたりで

あの"まなざし"がやってくる

本当に美しく映えている

それは奇跡のようで

凱旋のようで

たかが映画なのにどうしてここまで叙情的なのか

すごく不思議でならなかった

そして同時に

映画に触れる"時間"じゃなくて"年月"が、きっと

この芸術を色濃くするのかもしれないと思った

もっと映画に触れたい

ひたすらそう感じたエリセの映画だった