最強の相槌

他人を傷つけないように生きるのって難しいよね

って話をバイト中にしていた

「私アニメ専門学生時代、ディスコードで企業の

人達がある人の陰口を書き込んでるのが耐えられ

なかったです(泣)」

年上の同僚コンノさんが急に思い出したように僕

に言った

 

こういうとき

僕以外の男はどういう反応を見せるのだろう

 

「うんうん、わかるわかる。辛かったよね。その

とき僕がいればもっと相談に乗ってあげられたの

に...。」だろうか

ただ僕は生憎ぽっちゃり女性は全くタイプじゃな

く、そういう女性の大半は性格に難があると思っ

ちゃっているため、そんな色気を見せることは出

来ない

誰彼構わず女をオンナとして認識する性分でもな

く、僕は数少ない性格と容姿を兼ね揃えた素晴ら

しい女性をいつでも路地裏の窓や新聞の隅に探し

ているのだ

 

「あ、そっすか。」だろうか

これほど薄情に他人を突き放す真似はできない

自分が傷つくことは"基本"人にはやらない主義だ

今までさんざん傷つけられてきたから

 

「そんなの僕が当事者じゃない限り何も分からな

いじゃないですか。あなただってその陰口を止め

られなかった側の人間でしょ?結局どっかしら引

け目があって、その免罪符がほしくてそうやって

同意を求めてるんでしょ。」

だろうか

これは今までの人生で様々なものを吸収して培っ

てきた金沢の読心術である

これをひとたび発してしまうと本当に周りに人間

がいなくなってしまうということを大学のまどろ

っこしい人間関係の中で学んできた

そう

正直者は損をする現代なのである

 

しかし

"アウフヘーベン"という必殺技を手に入れた金沢

は遂にこういうときの最適解が出せるようになっ

たのだ

「その場にいたら『うわぁー』ですよねそれ...w」

これこそまさに

映画と体験の両方でもってより良い人間になろう

と修行してきた二十歳による最強の相槌

まずこれの何がいいって

話している方はとにかく気持ちのいい相槌だと

認識してくれるという点

これは漫画に学んだ

クライマックスの場面でキャラクターが自分と同

じ考え方に基づいた台詞を言うと、とにかく心が

ウキウキする

"カギカッコ"を用いて台詞調の相槌を打てば

「そうそう!」「そうそう!」といとも簡単に相手を

つけあがらせることができるのである

そしてもう一つ

"まっすぐな男"金沢のパーソナリティを1mmたり

とも侵害していないという点

もし「最低ですね。ありえないと思います。」って

言い切ってしまったらそれは僕ではない

少なくとも僕は映画に"俯瞰して物事を捉える"

ことの大切さを学んだ人間である

今の僕は

こんな時代に心細く生きていて

そういうときに頭ごなしに同意してしまうような

群れを常に求めてる阿呆のXユーザーでもないし

自分自身に嘘をついて誰かに好かれることに必死

だった2年前の僕でもない

確固たるモラルに基づいて

そういう真実が分からない事案には肩入れしない

ということを徹底して守っている

だからこの相槌は自分に嘘をつかずに相手を納得

させることが出来る画期的なものである

そしてなにより

今回の場合はそこまで語り手の"被害者面"が透け

なかったのだけれど

完全に語り手が被害者然としたエピソードを捏造

しているなと鷹の目で見破ったときは

主語をあえて使わずに

「『ふざけんな!』ですよね」と一言

その相槌を打たれた相手は自分の愚痴に賛同して

くれたように錯覚するけれど

実際にはその被害者然とした"擬態"に対してツッ

コミを入れることが可能なのだ

あまりにも素晴らしい相槌の手段ではないか