理不尽

お風呂でドラマを見てくつろいでいる頃

クボデラさんから連絡が入った

おとといのシフトを変わってくれたイナバさんが

救急車で搬送されたという

僕が江戸川区に引っ越してもバイトを変えない理

由の大部分は優しくてサッカートークをたくさん

話せて分からないことを丁寧に教えてくれるイナ

バさんの存在なので本当に心配だったしそれと同

時に日曜日に僕がちゃんと出ていれば...とかなり

凹んだ

職場で真っ先にキムラさんに「イナバさんは...」

と聞いたら

"尿管結石"だと分かって正直少し安心した

しかし

メッシがクラブW杯を休んでしまうほどの激痛と

して僕は認知しているので

どうかお大事になさってほしい

代わりに入ってくれたのはコンノさん

1時間経ったあたりでお互いに気づく

「今日忙しくね...?」

ちょっと前に発売された雑誌や、

メルカリ転売ヤーのせいで在庫が確保しずらいジ

ャンプなど、"難しい客注"というものが存在する

ない日は一度もないんだけど

今日はどうやらその"難しい客注"のオンパレード

それだけじゃない

現在うちの書店はオンラインサロンの会員と思わ

しき女客を二人飼っている

一方は頭に常にはてなマークの浮かんだような

おかずクラブのオカリナに似た若い女

毎回レジとレジを打つ人を別々に分けて

3つの本を9冊ずつクオカードで買っていく

そのよくわからないルールにとにかく手間取るし

支払い方法は現金でもクレジットカードでもなく

なぜかクオカード

どっから仕入れたのかもよく分からない8万円分

のクオカード(約80枚)をひたすら機械に通してい

くアホの作業にはうんざりだ

もう片方は高圧的な40代のババア

子供の頃やっていたスカッとジャパンという番組

の嫌な客コーナーで登場した人物そのものだ

オンラインサロンに入っているのだろう

ビジネス系の書籍を毎回15冊ほど買い

買った後に今回の配送と次回の注文をしていく

自分が何冊注文したか把握していないくせに

なぜか知ってて当然ですよねと言わんばかりに

聞いてくるのが腹立たしい

あろうことか、今回はその両方とほぼ同時刻に対

峙しなければならなかったのである

僕は人間だから、ちゃんと脳がショートした

そしてもう発狂寸前のところだった

コンノさんと2人がかりでなんとか攻略した

それだけじゃなく、今日はいつもは絶対に起こら

ないほどの長蛇の列が出来上がって、6連チャン

間を空けずにレジを捌いたりした

別にキングダムやワンピースの新刊発売日でもな

いのでもう何らかのバグだとしか思えない

しかもモンスターがいる時に限ってその雑魚ども

がまるで口並みを揃えたかのようにぞろぞろやっ

てくるのだ

もうしんどくて仕方がなかった

ようやっと終わったところでオンラインサロンの

ババアからお叱り電話

コンノさんが次回の配送日を聞き忘れてしまった

のだ

コンノさんもいっぱいいっぱいだ

数十冊の注文を毎日押しつけてくるようならせめ

て店員にその場で指示しろよ

全部店員が勝手にやってくれると思いやがって

その高圧的な態度は何とかならないのか

そのとにかく人相が悪くて、ブサイクな顔も何と

かならないのか

モンスターが去ったあと

今度はいつもは2,3件の探究依頼が立て続けに4,5

件来た

図書館で鍛えた本探しも、おばさまがお求めにな

られるスピリチュアル関連には一切通用しない

高島暦ってなんなんだよ一体

他の客の本を探しているときに「すみません」と

声をかけられる神経が僕には分からない

そのあともでっかいギターを背負った日大の軽音

サークルの大学生男女が7,8人

書店を利用してサブカルトークで親睦を深めよう

とやってきた

個人的に虫が好かんお気楽な会話が傷をグリグリ

とえぐるようで

しかも1時間くらいずっといるという

期限切れの雑誌を抜く作業の動線にずっといるの

で邪魔ったらありゃしない

やっと終わったとため息をつきながら

閉店の締め作業で外のラックを回収するとき

明らかに回収作業の邪魔になる立ち位置に

おばさんとおじさん、その倅と思わしき少年が

「日本で買うと高いのよ~オーストラリアの~」

「いらっしゃいませ~💢」(どけよオラ)

(父、無言で少年の立ち位置を少しだけ治す)

また次のラックを回収するが

相変わらず邪魔な位置にいる

「この春から研修医ですってね」

「出来た息子だ」(少年、アグネス・チャンの天神

のCMの少年くらい鼻につくハニカミ笑顔)

「いらっしゃいませ~💢」(話通じてる?)

やっと激務が終わって帰れる

そんなときに

「午前中母をお風呂に入れてきたんです」

「私この歳でもう介護始まっちゃって」

それは辟易した僕を支えてくれたコンノさんから

のあまりにもこころぐるしい一言だった

本当はそんな訳ないのに常に優しくふるまってい

る人だなあと思ったら、ヤングケアラーだとは...

このあいだ僕が観に行った

「夜明けのすべて」で上白石萌音が演じた役と奇

しくも境遇や素振りが一致している

まさに理不尽

嫌な一日だった