日本の近代文学のはじまりを告げる小説である
坪内逍遥の影響をもろに受けており
"美術の本質は人の心を喜ばせつつその気格を高尚とするもの"
という逍遥の言葉を体現したかのようなスタイル
長編な上に"言文一致"という文学と過渡期特有の
文体であるので、とても読むのが大変な小説だっ
たのだけど、その分めちゃくちゃ面白かった
だとは思うまい
堅気で内気で嫉妬深い主人公の内海文三
それなりに学識のあって分別もあるんだけど、よ
く分からない理由で免職されてしまった不幸な人
これには灰色の高校生活を送ってきた僕が共感で
きないはずがない
その文三が下宿先の奔放な小娘・お勢に恋をし
てひたすら振り回されまくるというお話なのだが
明治時代の小説なのに
この小説の面白ポイントである
文三の元同僚だった本田昇は年下のお勢に調子よ
くいじわるする一方で口がよく回る世渡り上手
余裕を感じられる男なのだ
その男への文三の嫉妬心の解像度の高さは百年以
上前の小説とは思えないほど洗練されている
これから一日一章この文学を読もうかと思うくら
い心の移ろいを完璧に捉えている