2023-06-23

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2020年放送のドラマ「探偵・由利麟太郎」をみた。

元々ひと月前に「蝶々殺人事件」という横溝のミス

テリー小説を読んだので、それを精巧に映像化し

たものを期待して見たのだが、ちょっと残念。

良かったのはキャスティングだけかな。

吉川晃司の渋みのある演技は仮面ライダーWで証

明されてるからもうちょっと完成されたミステリ

ー作品で主役張って欲しいな。

志尊淳はナイス配役。

甘いマスクの割に性格が豪胆というか、そのへん

の俳優よりも全然男らしい。

令和と昭和の男性像のハイブリッドみたいな男。

それだけに美少年好きの昭和人である横溝正史

もし令和に生きてたら志尊淳大好きだったんじゃ

ないかな。

脚本演出はひどい。

戦後すぐの作品なのになんか令和風にアレンジし

てたんだけど、大して脚本が上手くないから中途

半端だし、原作の良さが薄れてしまった。

この作品の話の作り方はホテルでの対話がメイン

で、全く別の場所にあるアパートだったり駅舎に

事件の種が蒔かれていたことが回想で明らかにな

る臨場感が面白いんだけど、なんかホテルもその

へんのビジネスホテルだったから興醒め。

ミステリー作品においていかに画作りが大切かを

学んだ時間になった。

そしてなによりこの作品の肝である歌劇女優・原

さくら(演・高岡早紀)の人間像が全然ダメになっ

てた。

原さくらは僕が原作の活字で想像した限りはとに

かく妖艶な女性。高岡早紀がんばってたけどちょ

っと技量不足かな。

それは仕方ないにせよ、脚本のせいで原さくらが

ただのメンヘラ女になってたのが残念。

付き人に傍若無人な原さくらは実は性機能障害で

子供が産めない身体であり、それ故に孤高の女優

であり、妖艶な雰囲気を醸しだしていた。そこに

付き人は気づけず、付き人が殺したもう1人の役

立たずな付き人こそ子供が産めない原さくらが死

ぬ間際まで母性を振りまいた連れ子だったその悲

劇性がこの作品最大の肝。

最初は殺されて然るべきと思った原さくらが実は

壮絶な人生の中にアイデンティティを確立させた

悲劇の人間であったことを読者に気づかせる仕掛

けが面白いのだ。

なので性機能障害の理由が先天的なものか後天的

なみたいな作品をつまらなくする部分は横溝はあ

えてぼかしたんだけど、このドラマでは学生時代

に原さくらに嫉妬した女と裏で繋がった男に襲わ

れて心に傷を負い、役もその女に奪われた経験に

よるPTSDって説明してしまった。

え、それはなんか違うじゃん。

まあ今は性機能障害なんて不妊治療とかでどうに

かなる時代だし技術の進歩が文学の表現性を狭め

てるのも事実。

だからこそ時代設定は当時のものでやって欲しか

った訳だが...。

付き人が殺した理由も"原さくらを芸術家として美

しくこの世から退場させる"という訳の分からない

理由。

横溝正史の犯人の特徴は殺ってしまったあとの後

悔とか殺った相手の真意に気づけない哀れさ。

そのへんの横溝感も薄れてしまって微妙だった。

うーん。