2023-07-14

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本邦最速の組で、

君たちはどう生きるか」を見てきた。

平成と令和の日本に生まれて、宮崎駿という一人

の素晴らしい作家の魂をリアルタイムに受け取る

ことができる幸せを噛み締めながら。

宮崎駿を育てた昭和は、感性の楽園だった。

それは命が今よりもずっと儚いものだったから。

太陽は心までは照らしてくれない。

いつ死ぬのか。なぜ死ななければならないのか。

"死"という一瞬のために存在する永遠の闇。

感性はそんな夜闇を照らす蝋燭の炎だった。

人工の光なんかよりもずっと弱い光源だったけ

ど、感性の蝋燭を人々は大切にした。

どんなに暗い夜も照らしてくれた蝋燭の炎を受け

継ごうとする者がいた。

当時の人は暗い夜を隣同士で共有していたのだ。

蝋燭は溶けていくから炎を受け渡すなんてことは

できない。

だけど、まだ火のついていない新しい蝋燭をもっ

た者がそれまで照らしてくれた炎への感謝を持ち

ながらに自分から炎を一生懸命おこすことで受け

継がれた。

突然どこからか吹いてくる風が炎を消してしまう

こともあった。

だけど、蝋燭の炎が消えても、温もりは誰かの胸

に残ったまま消えなかった。

 

科学と医療が発達した現代。

生命力が保証されるのと引き換えに、人間の感性

が死んでしまった。蝋燭なんてもう要らない。

人々は心を満たすSNSという最強の照明を手に入

れた。

知らない誰かが設置した人工の明かりが夜を照ら

してくれるようになったので特段暗さも感じない

夜になった。

どこにいっても明るいからみんなで寄り添う必要

もない。便利な世の中になった。

けれどもその夜には温もりがないのだ。

一人一人が感性を大切にする必要はなくなった。

それでも冷たい夜は続いていく。

間違いなく、一人一人の心の奥に、今の世の中に

感じる冷たさがどこかに"ある"のだ。

だけどそう思ったところで誰も蝋燭をつけようと

はしない。

冷たさを受け入れるのが正義だと思っている。

蝋燭を持つ者に対しては、「お前だけ温まりやが

って!今の世の中は冷たくていいんだよ!」と水

をかける時代になってしまった。

 

宮崎駿の炎は絶対に消えない。

それは限りなく永遠に近い炎だ。

何年も何年も、強く燃えながら、たくさんの人を

照らしながら、たくさんの人を温めながら、人工

の光で満たされた世の中になっても感性の大切さ

を与え続けてきた。

夜明けを待つ人に向けて希望を教えてくれた。

その蝋燭もあと僅かで溶けてしまうのだ。

その悔しさがこの映画の最初の感想。

必ずいつか人工の光にもガタがくる。

誰もが暗闇を共有する時代が再び訪れる。

そんなとき、僕は、僕たちは、宮崎駿の炎を思い

出すことが出来るだろうか。

夢をまた見れるだろうか。

そんな問いをいつまでも僕たちに見せてくれた宮

崎駿のあの美しい映像を、いつかまた僕は僕の

感性を燃やしながら、それを誰かの暗がりを照ら

す永遠の炎にするためにしっかり受け止めたい。

実はもう作品の伝えたいことはほぼ理解した。

そもそも宮崎駿の作家性はナウシカからずーっと

変わらない訳で、あとはその作家性と現代の社会

問題を掛け合わせれば答えが出る。

あのシーンを今すぐに深ーく語りたい。

あの儚さ。あの胸の痛み。大好きなシーンだ。

けれどもこの作品のドレスコード的に感想をすぐ

に文字に起こすのは違うような気がする。

とりあえず1週間ほど余韻に浸った上で、ジブリ

側がまだ予告を伏せているあたり空気を読んで、

次回の視聴後に正規の感想を書こうと思う。