2023-10-27

ハムナプトラ/失われた砂漠の都』を観た。

最近世界史を再履修していて、

河江さんのYouTubeだったり図書館の本なんかを

使ってエジプト考古学をちょっと真面目に勉強し

ているから、古代エジプトの知識を照らし合わせ

ながら観てみたら非常に面白かった。

たとえばミイラを作るときに取り出した重要な臓

器を保存するために入れる、"カノプス壺"ってい

う動物の頭を象った彫刻が先頭についたオブジェ

が、作中のボスであるイムホテップが狙う重要な

アイテムとして登場してきたり、

作中では"人喰い虫"としてパニック要素を盛り上

げる役割を担っているスカラベも、本来はラーと

通じる立派なフンコロガシの神様として古代エジ

プト人には崇め奉られていた訳だ。

セティ1世っていう新王国時代の実在したファラ

オが登場してくるのも、発見されたセティ1世の

ミイラはミイラの中でも非常に保存状態がいいも

のだという知識なんかを押さえて観ると楽しい。

古代エジプトの天空神であるホルスに対して、嫌

われ者の神として捉えられたセト神がいるんだけ

ど、そのセト神の名を冠したファラオはセティ1

世が最初。そんな知識もあると面白い。

そういった古代エジプトの歴史をしっかり学んだ

おかげでハムナプトラが面白くなったんだけど、

逆に言えば学ばずにあれを観たらかなりひどい評

価を下していたかもしれない(笑)

壮観なビジュアルの反面、ストーリーはどこか俗

っぽいというか、狙ってやってるのだろうけど、

めちゃくちゃB級感が漂う感じになっちゃって

る。

作中のボスであるイムホテップも最初はCG感満

載のミイラ体から始まって、だんだん完全体にな

るにつれてただのスキンヘッドのおじさんになっ

ちゃう。グロンギの方がよっぽど怖い。

古代エジプトの人々は魔除けや感染症対策の意味

合いで目元にアイシャドウを塗っていたという、

"魔"のオーラ全開のエピソードが残っているとい

うのに、何故かイムホテップはノーメイクのおじ

さんだったので、そういったナンセンスなビジュ

アルも相まって、世間の声では"どこか憎めない"

キャラクターとされている。

だけど僕は映画にそんなあざとさは必要ないと思

っているし、もっと悪役はキャラクターを立て

て、ディオくらいちゃんと描いてほしいものだ。

ほしいと思っている。

映画を締めくくる主人公とヒロインのキスシーン

も、コメディリリーフのヒロインの兄貴がいるこ

とでどこか情感の排除されたテイストになっちゃ

ってるし、そういう冒険活劇特有の心地良さを批

判するお笑いが映画全体を纏っているんだけど、

正直あまり好きじゃない。

インディ・ジョーンズのキスシーンなんかもたし

か誰かがKYなポジションにいたと思うんだけど、

ハムナプトラみたいに露骨なカットでちゃちゃ入

れるような事はしていなかったはず。

映画のコメディは真面目に生きている人から繰り

出されるものであって欲しい。

おふざけ調のコメディは、それまで真面目に生き

ている人物の滑稽さが、途端に哀愁にシフトする

瞬間に受け取れる素敵な感覚をバッサリ斬ってし

まうようで勿体ないと思う。

悪役なんかも真面目に生きていて悪役になってし

まうのだから、悪役に内在する善の心がたまに露

呈したりなんかすると、それこそどこか憎めない

キャラクターだと思える。

壮観なビジュアルをフリに使って、そういう人間

ドラマは適当にしちゃうという映画の作風そのも

のを否定するつもりはないけど、僕はあらゆる感

情を引き出してくれるインディ・ジョーンズが大

好きで、あの作品はもっと高い目線からコメディ

を描いているような気がして、それを近くで見る

と実は深刻だったりする。

見事なチャップリニズムである。

スピルバーグの映画の美しさはそこにある。

ハムナプトラ、ちゃんとやればもっと綺麗な映画

になっていたんだと思うけど、あえてそういう未

来を崩壊させてまで、コメディを描き通すスタン

スのロックンロールさは褒めてあげるべき。

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