職場で買えば10%引きになるというものを
逸る気持ちを抑えられずに大学内の書店で買う
まるで後ろから音符がくっついてくるように
ルンルン気分でキャンパスをうろついていた僕は
第三者の目にはさぞ気持ち悪く映っただろう
でもいい
今日は5年間ずっと追い続けてきた二人が
ついに恋愛を成就させるというのだから
『からかい上手の高木さん』の最終巻
みんなが期末試験に向けて勉強をしている図書館
で僕はニヤニヤしながら小豆島の中学生の恋愛模
様を覗いていた
何年も待ち望んだあの瞬間は予想外に難しかった
英語の期末テストの憂鬱なんてあっという間に吹
っ飛ばして僕の心をスカイブルーに染め上げた
どんなに疲れていても高木さんは読めてしまうか
ら恐ろしい漫画だと思う
しかしもう二人の下校を覗くことができないのだ
と思うと悲しくなりました
アルバイト先に知ってる顔が客としてやって来た
ときほどおもしろいものはない
いぬという芸人の太田さんらしき人が
雑然とした書店、僕のバイト先に現れた
プライベートに遭遇したら面白い芸人ランキング
TOP10には入るんじゃないだろうか
濃い髭と目元が特徴的な顔立ち
まさか私生活でそのまんまだとは思わないから
めちゃくちゃ面白かった
あとで調べたらR-1の一回戦があったらしいので
つまり賞レース終わりに本屋に寄ったということ
になる
髭の時点でもう僕なんかは気づいてしまったが
隣には彼女と思わしき女性もいて
バケツハットを被っていて
比較的小声だし、なんかスマホのいじり方が業界
人っぽいからもう9割そうだなと思った
しばらく様子をレジから見守っていたんだけど
店内をぐるっと歩いて漫画を探していた
これ来るぞと思ってニヤニヤが止まらない
数分後ついに「すみません」と声をかけられた
コント師の「すみません」をプライベートで受けら
れるなんてどれほど貴重だろうか
そのときが面白くって
うちの書店はとにかく物がいっぱいだから
レジ周りは不安定な置き方をされた物ばかり
太田さんはたまに誰かが引っかかる程度で
大抵の人が落とさずに済む栞入れを
見事に落っことしてしまった
床に栞が散らばってカオスな空間が生まれた
太田さん!なにやってんだよ!
と思いながら
こちらがあとでやっときますんで
という言葉を飛ばさずに噛まずに言えて一安心
ただ内心ワクワクしていた
芸人ってやっぱりプライベートからこんな感じな
んだろうなと思った
太田さんですかと声をかけるのは恥ずかしいから
しなかったが、太田さんがこれまでに頼った店員
の中でも僕はかなりこの人のことを認知している
方でそれに割とクセのある方だろうなとその時の
自分をメタ認知しながらニヤニヤ
探していた本は『ワンダースリー』というよく知
らない少年漫画だった
ここで一緒に探索できたら二万の夢がひとつ叶っ
たのかもしれないが
ボロ本屋のうちでは在庫が不揃いだった
でも至近距離で対面したときの目元
髭よりも目元の方が面白い人だと個人的に思う
だけど
本人がそれを武器としていないからあまりそうい
うイメージをもつのは芳しくないよなと前々から
テレビを見ながら思っていたので余計に笑っちゃ
いそうになった
むこうに知ってることがバレたかもしれないほど
ニヤニヤしてしまった
キングオブコント決勝のこのネタ
くだらなすぎて好き